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【アラベスク】  第3章 盲目Knight



第4節 夏が始まる [4]




「まぁ 所詮あれが実力ってところよねぇ」
 目の前で頬杖をつき、涼木聖翼人が呆れたように呟く。
「そもそも、コウはともかくとして、他の部員は今まで大した練習もしてなかったんだから、あそこまで勝ち進んだこと自体、奇跡だわ」
 そうして、チラリと目前の美鶴へ視線を送る。
「そう思わない?」
「さぁね」
 素っ気ない返事に、だが涼木=ツバサは気を悪くした様子もない。
 辺りからチクチクと刺さるようなクラスメートの視線。美鶴はイライラとツバサを()めつける。
「どうしてアンタがそこに居るのよ?」
「いちゃ悪い?」
「邪魔なんですけど」
「何の?」
「勉強の」
「勉強? 何の?」
「何だっていいでしょう?」
「相変わらずだねぇ〜 美鶴は」
「気安く名前で呼ぶな」
「いいじゃん」
「じゃあ私も名前で呼ぶぞ」
「あっ それは………」
 涼木は、聖翼人(えんじぇる)という名前で呼ばれるのが、あまり好きではない。だから蔦などは漢字の一文字、翼という字から「ツバサ」と呼んでいる。
「だいたい、名前なんて呼びづらいでしょ? ツバサの方が楽だと思うけど」
 どっちでも構わんっ!
 うんざりと視線を落す美鶴の表情に、ツバサは背凭れに身を預ける。
 ここは二年三組。ツバサは四組。なのになぜだが、美鶴の前の席に腰を下ろしている。
「終業式の日くらい、のんびりしたら?」
「誰が何をしようと勝手です」
「じゃあ、私が何をしようと勝手だよね?」
 そう言って、剣呑な美鶴の視線を笑ってかわす。
 あの事件以来、何かと声をかけてくるツバサ。その行動の意味がわからず、美鶴はただストレスを募らせるばかり。
 聡や瑠駆真だけでも十分邪魔なのに………
 額に眉を寄せ、不愉快そうに教科書へ視線を落す美鶴。
 その表情に、ツバサは心内で笑った。
 かわいいなぁ〜 金本くんや山脇くんが惚れるのも、わかる気がするなぁ〜
 まぁ もっとも、可愛げはないけどね。
 かつての自分を見ているようで、そんな美鶴に愛着すら感じる。

 周囲を排他していた。そのワリには、周囲の視線が気になった。
 美鶴も………

「今まで遠目にしか見たことのない有名人が目の前フラフラしてたから、思わず声かけちゃったってだけ」

 初対面でのツバサの言葉。それは、厳密に言えば嘘だ。
 いつか、美鶴と話がしてみたいと、思っていた。
 己の(もろ)さを強がりで覆い隠そうとする。その姿は、(はた)から見ると実に滑稽(こっけい)で、だが―――
 過去の記憶を懐かしむように、ぼんやりと机に肘をついた時だった。
「あら、大迫さん」
 ネットリとした声。
「お友達? 珍しいですこと」
 嘲りを含んだ笑い声。不快感が胸に湧く。
「あら? どなたかと思えば、四組の天使様ではありませんか? ずいぶんと大層なお友達ですわね。病院長のお嬢様とお知り合いだなんて、大迫さんも隅には置けませんこと」
 天使様という言葉に含みを感じる。
 美鶴の額に青筋が浮き上がるのを発見し、適当に追い払おうとツバサが腰を浮かせた時だった。
「お友達と談笑だなんて、大迫さんもずいぶんと余裕ですわね」
 意味あり気な口元。
「あれほど順位を、落してしまわれたというのに」
 ――――――っ! 順位?
 何のことだかわからない。
 美鶴の頭は、混乱した。







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